有川浩の『海の底』という小説を読んだ。
印象としてはあまり残らず、ありがちな展開が多く、退屈な作品だと感じてしまった。
『海の底』とは
『海の底』は前回読書感想を書いた『塩の街』と同じ作者である有川浩の作品。自衛隊が出てくることから自衛隊三部作の1作品となっている。
作者で選り好みすることはあまりない、というかそこまで読書数が多くないのだけれど、『塩の街』はなんというか感情にくるものがあって、その体験をもう一度したいと思い本書を手に取った。
結果、個人的にはだがつまらなくはないがページを捲るスピードは決して早くなく、後半は義務感から読み進めていた。そんな感じの本だった。
あらすじ
著者の自衛隊三部作の「海」に当たる。 桜祭りで一般に開放された横須賀米軍基地に突如海から巨大生物の大群が襲来し、次々と人を襲う。 自衛隊員2人は逃げ遅れた子供たちを連れ、米軍基地内に停泊していた海上自衛隊の潜水艦で籠城することになる。
『塩の街』が好きな人はあまり刺さらないかもしれない
僕は『塩の街』が刺さったので本作『海の底』を手に取った。けど僕の期待した作品ではなかった。それに尽きると思った。
『塩の街』を好きだったのは「終末もの特有の空気感」、あくまで「作品の主軸は人」「ボーイミーツガール」だった。今時の作品とはちがい思い切りの良さというか余計な情報が入ってこないので話の主題に集中できた。特に、現実から終末に至る過程の描写が好きで、今までは善良な市民が徒党を組んで組織的に法律ではない命や快楽を優先した行動をとるようになる描写が面白かった。塩の柱はどんなものだったのか、どうやって崩れたのか、などの描写がない。なぜならこの話は愛の話だったから。その割り切りや見せ方が好きだった。
それを今作でも期待した結果、だいぶ期待したものとは違っていた。
ミリタリーオタク知識を自慢されているように感じた
これは自分の知識不足もある。それ前提だけど、作者の「私の考えた最高のミリタリー話」をラノベで包み込んだようなものだなと感じた。
潜水艦の中に小学生から高校生までを保護し、長時間生活するという話も期待した感じとは違い緊張感が全然ない。今時小学生を殺すような描写はよほど覚悟が決まった作者でなければ行わないだろうし「全員生還するのだろうなぁ」というのが見えてしまってきつい。生きるか死ぬか、みたいな感じではなく「多感な中学生男児のセラピー話」が続いてなかなか読むペースがあがらなかった。年長者で家庭事情が複雑な望(のぞみ)にフォーカスが当たるがこの子の魅力がよくわからなかったためか最後までもやっとしていた。
本作では警察と自衛隊が組織として描かれている。最初現場が動き、だんだんと対策本部が設置されたり上層部のメンツや思惑が邪魔をしているようなエピソードが何度もあった。これはさながらシン・ゴジラ。型破りな生物専門家が出てきたりと既視感が強い。
未曾有の深海生物の進化による事件に対して、日本がどうやって対処するのかをシミュレーションしてみた、のような話で面白いけど偏った考え方のような印象もあったし、最前線である潜水艦は小学生のメタバリアのおかげでまったく緊張感がない。
ミリタリーオタク的には今回の話は「おお!」となるのかもしれないが僕が見ると話が盛大な割に地味で魅力的なキャラクタがいなかった。その割に塩の街と比べて登場人物が多いので印象が薄まっていると感じた。
前回よりディテールがしっかりしているのになぜ印象が薄いのか
一つ書いておくと、『塩の街』と比べて格段に物事の詳細説明や登場人物、団体が増えていたことを感じたし、前作よりも進化を感じた。
けど印象が全体的に薄い。なぜか。特徴的な市民のエピソードがうっすらしか描かれなかったからかなと思った。
潜水艦パートも警察パートもそれ以外も、被害状況(横須賀が半壊)の割に市民の被害が少なく感じた。もっと混乱や火事場泥棒みたいなことする人間や無惨にも殺されてしまう描写もあまりなく、記号的だった。そのせいかどこか現実感がない。
潜水艦は外を見ることができないので仕方ないとしても、警察パートではもっと市民の被害状況や起きている問題を見せて欲しかった。
筆者のインタビューを読むと、時系列で出来事を書いていきながら各組織がどのような対応になるかを想像しながら作り上げた作品なんだとか。 作る方はチャレンジだったのかもしれないが、それが面白い話になったのかはわからない。少なくとも僕は多少矛盾があろうとも気にしないし、時系列を順に説明されているこの方式はやや退屈だった。
次の『空の中』は保留
自衛隊三部作は手元にあるが、『空の中』は正直読む気が失せてしまった。長い割に没入感がないし、次も薄い印象だときつい。
ということで薄味の作品が読みたくなった時のためにしばらく寝かせようと思います。『図書館戦争』は大ヒットとのことで読んでみたい気持ちもありますが、どうかな。。。
僕は読書に関しては他人のレビューはあまり読まないようにしており、自分の感じたことを大事にしたいと思っています。この作品自体楽しめなかったのは僕の知識不足やこの時の感情や体調も関係しているかなと思うので、この作品が好きな方がいたら申し訳ないですが僕はこう感じたということで流していただければと。