こんにちは。ぼっちバイカーです。
新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』を公開日に観てきましたので感想を書きます。
この作品を観終わった時に「これはブログ書きたいな」と思える、なんというか非常に考えさせられた作品でした。
タイトルにもある通り、ネタバレありで映画を観ている前提で書きますのでこれから見に行く人は注意してください。
『すずめの戸締まり』を観た感想
最初に一言。
『すずめの戸締まり』は日常すぎてつい忘れてしまいがちな家族・友人の優しさや大切さを思い出させてくれる作品。そして今まで生きてきた自分を肯定してくれるような元気をもらえた映画でした。
これは、主人公である鈴芽(すずめ)の短いけれども充実した日本の旅を通してこれらを思い出させてくれる振り返りの旅。新海誠監督的に言うなら「行って帰ってくる旅」でした。
感情がぐるぐるしていて、そしてこの作品は要素が本当に多いのである程度切り口ごとにざっくばらんに書いてみます。
『すずめの戸締まり』のテーマは成長・ラブコメ・地震
配られた冊子「新海誠本」の最初のページに書かれていたのが、この作品のテーマは「母を亡くした鈴芽の成長」「美しいイケメン草太とのラブストーリー」「日本各地に爪痕を残した大地震めぐり」の三本柱だったということ。
これ以外にも劇中には小さなテーマがありましたが、基本骨子はこの3つ。
作品を観終わった後に感じた割合は「鈴芽の成長が3、ラブコメが2、大地震が5」。とにかく印象に残っているのは大地震のことでした。なのでまずは震災のことから。
かなりキツくてシンドイ地震描写が続いた
今作ではTwitter公式アカウントが警告されるくらい、地震災害直前の描写が出てきます。何度も何度も!
映画『#すずめの戸締まり』
ご鑑賞予定の皆様へ pic.twitter.com/KVfAk6s2aw— 映画『すずめの戸締まり』公式 (@suzume_tojimari) October 22, 2022
被災すべて鈴芽と草太(イス)の頑張りで未然に防ぐことができましたが、あの心拍数が上がるアラートのシーンだけでもトラウマを呼び起こすのには十分だったと思います。
緊急地震アラートが一斉になるあの感じや被災する前と現在の対比等、被災経験がない僕ですらかなりシンドかった。僕は割と共感力がある方なのですが、劇場の雰囲気に飲み込まれてちょっとテンパってしまうくらい衝撃でした。
被災経験者やトラウマがある方は助けてくれる友人と一緒に鑑賞しないと本当にやばいと思う。
正直に書きます。
「大作ラブコメアニメ映画見に来たのに震災シーンてんこ盛りで無理やり震災と向き合わされている感覚があってシンドイ」という気持ちも心の底にはありました。
震災シーンを国民的アニメ映画で描いてしまった問題作?
僕はこの作品の前情報を一切入れずに鑑賞したので、冒頭の震災アラート発令のシーンを観て「震災表現が描かれてる!あー!新海監督やってしまった!!!これは炎上するぞ…」と本気で思いました。これは完全に僕の肌感ですが、2011年3月11日の東日本大震災以降、地震ネタを娯楽作品で扱うのはある種のタブーという空気感があったから。
タブーを破る大いなる意図や覚悟も無く、なんとなくアポカリプス的な表現として地震のシーンや津波のシーンを入れようものなら「不謹慎だろ!」というクレームが殺到しても文句は言えない。という感じ。
例外としては震災の恐ろしさを啓蒙する作品でしょうか。「日本沈没」「東京マグニチュード8.0」みたいな作品は視聴者も初めから覚悟して見る、ある種の教育番組的な位置づけは許容されると思います。震災シーンを入れるというのはそれだけセンシティブで百害あって一利なし、とまでは書かないですが、覚悟を持っていないとやばいよな。っていう認識でいました。
最悪、ポニョみたいに地上波放送で流せない作品になるかも・・・
「これは炎上かなー辛いー」と思いながら観ていると、各地で震災シーン(厳密には未然に防ぐ)が出て来る出てくる。
これを観て僕はようやく「新海監督は生半可な覚悟でこの作品作っている訳ではないんだな」と決意のようなものを感じました。炎上や批判も覚悟で震災をテーマに映画を一本作ったんだな!って。
あとはこちらの覚悟だけです。「被災表現!!不謹慎だろ!」と脳死で脊髄反射するのではなく、ちゃんと全部を観てその上で面白いかを判断する覚悟を持って最後まで見届けました。
3月11日のシーンは鳥肌が立ちすぎて心が震えた
この作品で一番鳥肌が立ったシーンが例の「3月11日の絵日記」でした。。。
絵と文の部分が全部黒塗りで、月日に「3月11日」と書かれているだけでここまで精神を持っていかれるんだなぁって。
4歳児の「鈴芽のおかあさん知りませんか」は親になった自分にはとてもつらいく、クるものがありすぎました。
なぜ新海監督は震災被害をテーマに扱ったのか?
震災シーンはこの作品の賛否が分かれるポイントなのは明白。震災をメインテーマにすることは新海監督にとって大きな決断だったはず。
パンフレットで新海監督のインタビューを読むとこのあたりの理由が少しわかります。2020年時点での企画段階で「場所を悼んで旅をする」と決まり、最初に思い浮かんだ場所が東北の2011年の東日本大震災だったそうです。「君の名は。」でも厄災シーンはあったけど、当時は東日本大震災のことを直接的に映画で出すことは今よりもタブーだったので、迂回するしかなかったんだとか。でも表現者としてはこのテーマは「描くべき課題」のような感覚がずっとあったそうです。
そして本作では「(東日本大震災に)もう一度触れるべきではないのか、触れるならばもう今しかないのではないか」という葛藤の末に決めたんだとか。
新海誠監督は今や日本を代表するアニメ監督です。そんな世界が注目する次回作で「批評を覚悟で描きたいものを描く」を貫き通した新海監督の凄さを改めて感じました。
間違いなく一石を投じた作品
震災を国民的アニメ映画で流すことについて、今後どう評価されるのかは正直わかりません。でも、この作品のおかげで今までのタブーだった震災シーンも今後は許容されやすくなるのではないかと感じました。
そういう意味ではこの作品は「”震災シーンがタブー視される空気感”という扉を戸締まりした」とも言えるかも。
『すずめの戸締まり』は被災地の戸締まりをしていくロードムービー
鈴芽の旅路は九州から始まり、四国の愛媛、関西の神戸、関東の東京、東北は福島への道程でした。
・・・今回の旅は「被災地めぐり」だったことに気がついた方は多いと思います。(愛媛はなんだっけ・・・?)
作中では”被災地”とは称さずに「廃墟の戸締まりをする話」でしたが、これは間違いなく「各被災地の辛い思いや楽しい思いを一旦思い出して整理する作業」です。
この戸締まりのポイントは「昔と今を同期させる事」だったように思っています。
鈴芽が廃墟の”戸締まり”をする時には必ず「当時の活気に溢れていたの声」が聞こえてきます。そして戸締まりの前後には現地の人との会話がありました。人によって廃墟への想いは違いますがなんにせよ、現在は廃墟として役目を終えた。それを確認していたと思います。そしてこの”戸締まり”は最後、鈴芽の過去に出会って勇気とイスをあげるシーンに繋がっていました。「昔の自分に対して何もしてあげられないけど、今の自分という事実を見せることはできる」。これこそまさに自分の過去に対しての戸締まりでした。
被災地を巡り、最後には死ぬ寸前だった過去の自分を戸締まりするロードムービー。素敵です。
正直、もっとラブコメが観たかった!!!
この意見、多分一番多いんじゃないかな。
「厄災を止める旅」という崇高で激重テーマも好きですが、正直に言うと僕は「もう少しラブコメ要素がほしかった!」です。
僕は新海誠作品の(終わり方はどうであれ)ラブストーリーやラブコメの要素が好きなんです。特にヒロインの「童貞が考えたちょっとえっちな最強の彼女感」が大好物。カメラワークが露骨なシーンがありつつも、それが気持ち悪くないギリギリを攻める感じが好きでした。
本作では女性が主人公ということもあって非常に健気で魅力的なヒロインだけどえっち要素はかなり減らし、カメラアングルも今までよりもフラットな目線だった気がします。4歳の時に大好きだったお母さんと死別したのに、健気に真面目に一生懸命な主人公。過去に引きづられており恋愛や未来のことを考える余裕がなさそうだったのもあり、この設定でのラブコメ自体がちょっと無理があったのかも。
なのでヒロインは「閉じ師」の草太ですねw 男の僕ですらゾクッとするほど美しいイケメンでした。企画段階で一時は女性になる可能性もあったんだとか。正直に言うと、女性だったほうがよりヒロイン感がでてよかったのかなとも思いました。まぁどのみち劇中の半分以上はイスだったわけですが。。。
ストーリー展開・音楽・演出すべてが高レベル
いわゆるキャストやロケ、特定のシーンだけにお金をかけてしまい駄作となった作品もあるなかで、『すずめの戸締まり』は間違いなくすべてのレベルが高く、高品質な劇場アニメ映画でした。
なんと言っても背景や映像美。新海誠の空やカメラがアクティブにぐるぐる動くのは毎回鳥肌が立ちます。そして町並み。本当にどのシーンで停止しても息を飲むような美しい絵なんです。スローモーションでゆっくり背景や詳細まで描かれたこの世界を堪能したい・・・
音楽は今回はより幅が広く、ミミズが出てくるシーンでは壮大で絶望すら感じる現代的な曲。かと思ったらジャズでひっちゃかめっちゃか、と思ったらピアノで聴かせてきたり、感動的なバラードが流れたり、、、そしてBGMだけでなく雑音や風の音、都会の騒音、電車の音等など…リアルな映像にマッチしており、現実との区別がつけられないほど。
演出やストーリーの流れは前作から更に進化しています。先がどうなるのか全然予測できないし、一切飽きる感じが無かった。演出については特に「戸締まり」にちなんで、鍵を回すシーンは必ずアップでわかりやすく戸締まりを意識させてきます。数が多くて忘れてしまいましたが、油断した頃にこの「ガチャ!」というカットを観てハッとさせられました。
『魔女の宅急便』との共通点がすごい
『星を追う子ども』はスタジオジブリ作品に非常に似ている印象がありましたが、本作も『魔女の宅急便』を感じるシーンが多かった。
自転車で坂を下るシーンから始まり、猫、イスを掴んで空を飛ぶ主人公、赤いオープンカー、「ルージュの伝言」、そして主人公が旅に出て現地の人々と出会い成長するストーリーなどなど。
実はスタジオジブリの宮崎駿監督との共通点もありました。映画『魔女の宅急便』は1989年7月に公開されたのですが、宮崎駿はこの時48歳(1941年1月生まれ)。新海誠監督は現在49歳と年齢もめちゃくちゃ近いのです。
49歳くらいの感性ってこういう作品になる傾向とかあるのかな。
花澤香菜・神木隆之介の再来が神采配すぎた
もう絶対に過去作品のキャラが出てくると思って真剣に探していたので盲点でした。まさか別のキャラクターで出演するとは…。
特に芹澤君(神木隆之介)は短い登場時間でしたが非常に印象に残るキャラで、好きなキャラアンケートとったらベスト3に絶対入ると思うくらい「魅力的な親友キャラ」でした。
東京で草太が要石となってしまった絶望的な状況、更に加えて叔母の環と合流するというもう絶対居合わせたくない時に居合わせてしまった愛すべきキャラ。鈴芽の叔母である環さんに気を使って歌謡曲を流しているんだけど年齢的にちょっとずれているあたりとか含めてすごい好感を持てました。このキャラクターがいなかったらずっと重い展開でしんどかったので本当すごい。声優じゃないのに全然違和感ないし、なんならアカペラで歌ってるしで神木隆之介さん本当すごい!
あ、花澤香菜さんは『こばと!』からのファンなので声が聞けるだけで尊かった!!
マクドナルド食べてるシーンがわかりみが深すぎた
車の中で子供二人が後部座席でマックのハッピーセットを食べるシーン。
子供のめちゃめちゃこぼす感じとかもうわかりすぎる…。
うちの子どもたちもマックの「枝豆コーン」しか頼まないのでなぜかこのシーンが凄く印象に残っています。
マックコラボ
そしてなんと、映像ないだけではなく実際にマクドナルドとコラボもしていました。
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ついに、今日11/4(金)から!✨
\#ほんのハッピーセット でもらえる絵本📚 #新海誠 監督の初絵本 #すずめといす❗️
がんばるお母さんのために、すずめちゃんが作った料理とは!?🥺💓読んでみたくなった方は、いいね❣️お願いします😊🙏
詳しくは→ https://t.co/q6fDVhKyQF pic.twitter.com/ZMxpirJC6T
— マクドナルド (@McDonaldsJapan) November 4, 2022
『すずめの戸締まり』は要素が多すぎた感ある
この作品、要素が多すぎてちょっと未消化だと感じました。
「閉じ師としての被災地を巡って日本を救う」「ラブストーリー」「要石だったダイジンの追跡」「草太をイスからもとに戻す」「叔母の環との関係」「死別してしまったおかあさんへの未練」などなど沢山の重めな要素が同時並行しており、流石にちょっと多すぎたかなと思っています。
この中でいちばん大事なのが「閉じ師として廃墟で扉を閉じて日本を救う事」次いで「死別したおかあさんへの未練」でした。
本作のメインストーリーは「閉じ師として廃墟を巡って日本を救う」なので当然一番大事。そして死別したお母さん問題も同じ。鈴芽のアイデンティティは4歳で一旦止まっていて、作中何度か出てきた「死ぬのは怖くない!」という言葉がそれを表していました。鈴芽という人物が前に進むにはまずはこの問題を解決しないと楽しく恋愛なんてできないのです。そして付随する震災のシーンは仕方ない。新海監督が描きたかったこと。
で、それ以外は少し強引にまとめられていましたと感じました。
個人的にはもっと草太さんとのラブストーリー要素が観たかった。ダイジン追走についてもちょっと強引で納得感がなかった(ダイジン、日本語下手か!猫だから何を言っても仕方ないけどさ…)し、叔母の環との関係も本音をぶつけ合う1シーンだけで解決したのもちょっともやっとした。イスにキスすることで草太を呼び戻せる「愛のチカラ」もすごいふわっと匂わせだけでした。(このふわっとは嫌いじゃないです!)
この作品がすごいのは風呂敷広げまくったけどちゃんと全部回収したこと。そしてここまで要素が多いのに、宿敵とか悪者がいないのが本当にすごい!!
結局、映画『すずめの戸締まり』は面白かった?
色々と書いてしまいましたが、『すずめの戸締まり』は面白かったか?と聞かれたら「めちゃくちゃ良かったしぜひ劇場で鑑賞してほしい」と伝えたい。
とにかく基本としてストーリーが面白くて飽きないし映像は相変わらずの神。色々な要素もちゃんと綺麗に回収されているので観終わった後にスッキリしました。
僕は特に、鈴芽の過去との対話シーンが印象に残っています。
「今の自分に自身がない時は他人じゃなくて過去の自分と比べたらいいんだよ」って。
現代は慌ただしくてあっという間に時間が過ぎていきますが、こうやってたまには昔の自分と今の自分を見つめ直して、戸締まりをする、というような時間が必要なんじゃないかなって思うなどしました。
新海誠監督の作品、本当毎回毎回クオリティが高くてでも斬新で本当にすごい!
次回作は3年後かな?楽しみにしています!!!
こんな感じ。
前作の『天気の子』のレビューも書いているのでよければどうぞ。