塩の街

【終末ものが好きなあなたへ】『塩の街』を読んだ感想

有川浩の『塩の街』を読んだ。

塩の街
塩の街

読んだ感想として読みやすくシンプルで面白かった。登場人物も少ないのでやや浅く感じる部分もあったが、逆にテーマに関係ない描写はとことん省略されるのでテンポ感が非常に良く、サクサクと読めて楽しい読書体験だった。

個人的にはアニメやノベルゲーで好きなジャンルである「終末もの」特有の雰囲気が特に好きだった!

『塩の街』とは

有川浩の『塩の街』は2002年に発表されたデビュー作。東京に巨大な異物(潮)が降りてきて人々が塩害(塩になってしまう)で死ぬという、ポストアポカリプスとまでは言わないもののアフタークライシス系の話。アニメだと「終末もの」と呼ばれるジャンル。

作者の有川浩(“ひろ”と読む)さんは「SF + 自衛隊」という組み合わせの作品で、デビュー作。

読むと、本編がアニメ12話くらいのボリューム(小説としては短い)で249項。さくっと読める。そして後半の195項に渡ってアニメで言うところのOVAのような後日談が4話楽しめる。そういう構成。

『塩の街』はライトノベルだった

後書を読んでわかったのは、どうやら本書は小説ではなくライトノベルである事が判明した。僕自信ラノベは初めて読んだためこれがラノベなのかはわからないが、今まで読んだ小説と比べても読みやすく楽しめたことは確か。

ジャンルや肩書きは正直なんでもよいが、ライトノベルと小説の違いってなんだろ?と改めてなってしまった。(なお調べたら境界線は曖昧らしい)

作者は他にも「図書館戦争」というアニメも有名で僕もタイトルくらいは聞いたことがある作品も執筆している、いわゆるアニメや漫画寄りの方なのは間違いない。

塩の街は漫画化されているので作品が好きな人は漫画を読むのもありかもしれない。

とにかく登場人物が少なく話も行ったり来たりしないので読みやすい

僕が今まで読んできた小説との違いとして一番感じたこと、それは「登場人物や背景情報などの情報が少なくて読みやすい」という事。

登場人物は主要人物から関連人物まで含めてもかなり少ないし、主要人物以外は名前がない、いわゆるモブキャラが圧倒的に多い。つまり本書の内容のほとんどは主人公たちのことや深く関係がある情報、そしてメインストーリーに直結している。

たから冒頭で書いた通り話がサクサク進むし無駄に停滞しない。もっと丁寧に描写しそうな部分をこのほんは本当に容赦無く飛ばす。でも重要な部分やテーマ部分はしっかり説明してくれるので置いてけぼりにならず、ちゃんとついていけている。元々ページ数も少ないことも手伝って「ちょっと物足りないけど一つのストーリーを読み終えた充実感」を十分感じることができた。

そして、この物足りなさを補う後日談がまたちょうどよいくらいの量や長さ。アニメの1-2時間のOVAを見ているようだった。これでいいんだよこれで!って感じ。

もしかしたら。この割り切りやシンプルで読みやすいストーリーがライトノベルとSF小説とのちがいなのかもしれない。続編とか続くとまた違うのかもしれないけれども。

主人公やメインテーマにフォーカスされた話なので人を選ぶかもしれないがわかりやすくて個人的には楽しめた。

 「終末もの」が好きならぜひ読もう

僕はアニメでも「終末もの」のお話が大好き。「人類は衰退しました」「少女終末旅行」「天国大魔境」「コッペリオン」「東京マグニチュード8.0」などなど。ゾンビアポカリプスものも好きだけどホラーは苦手。

法律やルールで安定している世界が常識では考えられない出来事で変貌してしまい、ルールや規範よりも快楽や人間の欲望に従ってしまう人々の成り行きをみるのが好き。そんな世界でも人を大切に出来る優しさを持つ人も好き。人間の素が増幅されるような感覚が好き。

「塩の街」も終末ものとして良かった。主人公の真奈が自分が狩られる側であることに気づき、それでも生きなければいけない世界。でも優しい人もいて、そのおかげで人を好きになり、強くなる。

終末もの、と書きつつも人口はまだそこまで減っておらず、配給も続いている。それもまたリアルというか現実に近いからこそ身近に感じやすくて良かった。

終末ものが好きな人はぜひ読もう。

テーマは愛。愛の前には勝てない!

この本はSF + 自衛隊というジャンル。そしてこのお話のタイトルは塩の街だけどテーマは塩でも街でもなく、愛だった。

ヒロイン?の女子高生である真奈は事件があって両親が亡くなり、男たちに襲われ運良く秋庭に出会え、一緒に暮らすことで好きになった。もし事件が起きなければ秋庭を好きになることもなかった。絶望の世界で唯一の生きる希望は相手が幸せである事。相手が好きだから相手のために何かしたい。相手に死んでほしくない。そうやって自分と相手の距離感というかボーダーラインが徐々に曖昧になっていく。そして相手がいない世界なら自分は生きる意味がない。と言い切れるまで成長した姿は感動したし愛の力を見せつけられた。決して自立しているのではなく二人で一つという言葉を形容するような間柄ですごく雰囲気が良かった。

そして自衛隊の同僚であり恋人の関係であった由美と正は事件が起きてから生きる意味を考え結婚した。結婚を踏み出せずにいた由美は自分がいつ死んでもおかしくないことに気づき、そして死ぬ時に誰といて欲しいかを考えてしまい、結果それが結婚するということだった。結婚する理由は関係はそれぞれだが、「死ぬ時に誰と一緒にいたいか」という理由は考えたことがなかったので興味深かった。

今まで読んできた小説はどれも恋愛にフォーカスされた内容ではなかったのですごく良かった。今度恋愛小説も読んでみたい!

まさかのラスボスを倒す描写はない!でもそれがよい!

これ本当に思い切ったなぁと思った。まさか、ラスボスである塩の結晶をF14で破壊するシーンを一切描かずに話を完結させるとは思ってもみなかった!

普通なら起こりたくなったり「作者は表現できなくて日和ったのか?」とかいいたくなるが、今回は違った。上で書いた通りテーマは愛。愛し合う二人が「絶対に生きて会う」と信頼できたのだから作戦は成功しないはずがなかったのである。

米軍からF14を強奪するところまでの緊張感が嘘のようにギャグのような出来レース展開とお膳立て。肩透かしを食らったけど作者から「この話はガチなSFじゃなくて二人の愛がテーマなんだぜ?」と諭されているような気分だった。

もし真面目に結晶を破壊するシーンを説明し、それから真奈の元に帰ってくる場合ここまで感動というか爽快感はなかったのではないかと思う。

読者は真奈と同じで秋庭が生還したことをF14の轟音で知る。見上げるとかっこいいF14が上空に!

このシーンは突然没入感が増してついていくのが大変だったけど印象的なシーンでした。良かった。

まとめ

有川浩の『塩の街』を読みました。

話も短く構成もシンプルで読みやすく、爽快感がある好きな本でした。終末感が感じられる作品はまだありそうなので有川作品をもっと読みたいですね。

テーマは愛とどストレートなので人を選ぶかもしれませんが僕は全然アリでした。

ライトノベルも初めて読んだので他のラノベもちゃんと読んでみたい!できれば単行本一冊で終わるくらいのやつで。

広告
塩の街
最新記事を読む