【フリーレンを感じた】高田大介『図書館の魔女』は記憶を消してまた読みたい名作だった

一つの動作を説明するだけでこの人はここまで丁寧にそして鮮明にイメージさせることができるのか!

これは、僕がこの本を1時間読んで感じたこと。

後半は加速度的に面白くなり最後はいつまでも終わって欲しくなくなる外交ファンタジー小説」を読みたかったら『図書館の魔女』をお勧めしたい。設定やあらすじを見ても面白さは伝わらないです!とにかく1巻だけ頑張って読んでみてほしい。

・・・正直に書こう。

「1巻の半分まで読んでも面白いと思えなかった。でも1巻最後まで読み進めたらそこから徐々に、そして最後には止まらなくなるくらい入り込めた」そんな作品です。

『図書館の魔女』ってどんな作品?

『図書館の魔女』は2010年に発表された外交ファンタジー小説。メフィスト賞という『究極のエンターテインメント』『面白ければ何でもあり』という面白さと個性が重視される賞を受賞している作品です。

図書館の魔女

『図書館の魔女』は2023年にハードカバーで上下2巻で発売され、2016年に文庫本として全4巻で発売。

著者は高田大介。著名作品は『図書館の魔女』。つまりこの本がデビュー作。筆者はフランス在住で印欧語比較文法・対照言語学を専攻している言語学者。Xアカウントはこちら。経歴だけを見ても特異。

『図書館の魔女』のあらすじ

あらすじは以下です。

鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女(ソルシエール)」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声を持たないうら若き少女だった。超弩級異世界ファンタジー全四巻、ここに始まる!

この作品のタイトルにもなっている「図書館」で扱われるのは大量の本。多岐にわたる言語で書かれた本を司るのが図書館の「魔女」であるマツリカという少女。現役の言語学者の知識がこの作品の”図書館の魔女”を魔女たらしめている訳です

。言語学者が書くファンタジー小説というだけで普通ではない。「第一言語の日本語ですらまともに使いこなせない僕に理解できるのだろうか」と不安になりつつ、この本に挑むことに。果たしてどうだったでしょうか・・・・!(面白かったよ!)

この記事では作品のネタバレは含まれません

前提としてこの本の凄さは形容するのが難しい

最初に訳がわからないことを書きます。

僕はこの本を本当に楽めました。特に中盤以降はページをめくる手を止められず深夜になってしまうほどにはハマった。そして終盤は終わりのページ数が減っていくのを見て「まだこの作品が終わって欲しくない」と1ページ1ページじっくり味わいながら読了を迎えました。

そして「この本はよかったのでブログで書きたいな・・・

そう思っていたんです。でもいざ書き始めてみると・・・

この本の魅力はなんだったんだろうか

を言葉にまとめることができなかった。

ありきたりな言葉でこの本を表現するとなんかしっくりこない

「キャラクターが良い」「世界観が良い」「話の内容が面白い」「後から真相がわかって爽快」。色々な表現で褒めることができます。でも文字にすると一瞬で陳腐化してしまうしこの作品はそういう一般的な軸だと評価できないのかもしれません。

読み終わった時の満足感と「図書館の魔女ロス」を確かに感じた。この本は面白かったんです。なんて書けば良いんだろう?

自分の日本語の下手さに悲しくなりつつ、それでもこの本を読んで感じたことをざっくばらんに書いていきます。書いていくうちに何か答えが見つかるかもしれません。

圧倒的に解像度が高い読書体験だった

とりあえずこの本の第1巻を半分くらい読めばわかると思います。

この本、本当に話の進行が遅いのです。

例えば冒頭は以下のような展開でした。

  • 山に住むキリヒトは王都の使いに連れられて図書館へ旅をした
  • 図書館の中に入り、魔女の正体であるマツリカという手話を通じて会話する少女と出会った
  • キリヒトはマツリカのお手伝いをすることになり、挨拶回りをした

こうやって雑に3行で説明できてしまうことを150ページほどかけて丁寧に、本当に丁寧に描写しています。

この前に読んでいた本は子供向けの本だったこともあり「え、この本全然話進まないけど大丈夫?!」と混乱しましたよ。じっくり数時間読んでも話が全然進まないんよ。

普通ならこんな本は損切りしてしまう。でもこの本はそうではなかった。

話の進みが遅い分ちゃんと解像度が高く、他の作品にはみない表現や心理描写。全て伏線なのではないかと気を張って読み進めないといけない緊張感があった。アニメでは数秒のシーン描写にこの本は数ページかけて懇切丁寧に書かれているのです。

初めて「物語の進行が遅くても良い」と感じた作品

お話の進行が遅い、というのは一般的に悪い事として使われるとが多いです。でも映画やアニメなどの映像作品と違い、文字だと必ずしも悪いことではないのかもしれない。「図書館の魔女」を読んでそう思ったんです。

実際この本では秒単位での描写がものすごく精細。読んでいるだけで脳内描写が鮮明に映し出される、まるで映画をみているような体験ができます。

これだけ細かく描写したり説明すれば進行が遅くなるのも仕方ない。この本は確かに進行が少ないけど決してグダグダなのではなく”解像度が高い”という表現がピッタリくる作品。解像度が上がればそりゃデータ量(文字数)が多く(長く)なります。動画で例えるとスローモーション。スローになる分コマ数が増えるのは当たり前。

これは万人向けにお勧めはできない。現代の忙しく数十分の動画すら早送りや倍速再生しないと気が済まずに10秒程度で終わるSNSが流行る人間との相性は決して良くないからです。

使われている漢字や表現は容赦ないほど難しい

この著者、「常用漢字?UX?何それおいしいの?」とばかりに読めない漢字をルビなしで繰り出してきます。

作中に出てくる図書館の魔女マツリカならきっと「“常用漢字”?せっかく物事を的確に表す文字が存在しているのに愚者に合わせて制限する?そんな馬鹿なことはないだろう?お断りだ。そんな奴らに付き合って無駄な時間をかけるなんてお断りだね」とか言いそうなんですよね。そのせいか、難しい漢字や表現が出てきても筆者に文句を言う気が起こらない。文句を言うということは自分が愚者だと認めることになってしまう。そんなジレンマを感じました。

この感覚、この本を読了された方なら伝わるのではないかと思うけどどうでしょう?

何が言いたいかと言うと、この本はこの本の言語へのこだわりや流暢な日本語、読み方すらわからない漢字や難しい言葉のオンパレードなのです。圧倒的情報量に溺れること必至。おかげでスマホで意味を調べながら読まないと読むことすら叶わない。これは間違いなく序盤で読むのをやめさせる理由になっていると思う。けどこれがこの作品のクセというか特徴なのでこれを受け入れられるかどうかで作品に入れるかどうかが決まる気がします。

とにかくマツリカが可愛い

告白すると、この本を最後まで読み進められたのはひとえに図書館の魔女であるマツリカのキャラクターに惹かれたから。

年端も行かぬ若い女の子なのに頭の中はおばあちゃんみたいに落ち着いて論理的に!”話す”。厳密には言葉を発するのではなく手話や指話で。このギャップにやられました。

マツリカはフリーレンに被って尊かった

この本を読んで思い出したキャラクターは漫画・アニメ『葬送のフリーレン』のフリーレン。

葬送のフリーレン

あちらはエルフで長寿なので知識があるため、やっぱり見た目は少女なのに中身はおばあちゃんみたいなのにギャップが良かった。本作のマツリカの可愛さもこれなんですよええ!

そして言語や本・政治についてはものすごい知見や先読みをする反面、年相応の感情がたまに出るのが良い。この話は小難しい軍略や政治の話・冒険話が大半ですが、たまに挟まれるマツリカとキリヒトのボーイミーツガールパートが尊かった!

「もっともっとこの二人の行く末を見守りたい!」温かい気持ちにさせられました。最後まで露骨なセクシャル表現とかもなかったのがまたよかったね。

僕は読書中音楽を流すのですが、この本を読むときは専らフリーレンのサウンドトラックを流していました。よいぞーー

話を知っていてもまた読みたくなる不思議な作品だった

この本は大きな伏線や壮大な隠れた秘密があるわけではなく、大きなイベントや感動的な結末が待っていたわけでもないかなと思います。もちろんお話の展開はあったけど事実だけなら10行で書けてしまう単純な話。

でも事実の”行間にある情報量”が膨大で、その行間こそがこの作品の魅力なのではないかなって。まるで一緒に体験してきたかのような没入感がこの”行間”にありました。

そのせいか、「もう一度最初から読みたい」と強く思えたんです。強くてニューゲームしても嫌にならないのもこの作品の魅力なのではないかと思います。

まとめ

「図書館の魔女」を読んだ感想を書きました。

・・・実は、このポストを書くのに、たった3700文字程度なのに結構時間かかったんです。理由は簡単。この本の良さが「良い・悪い」とか一般的に言われる評価基準ではうまく点数がつけられなかったから。

この本は面白いし本当に読んで良かった。けど何が良いのかをちゃんと言語化する事ができないもどかしさが最後までありました。

冒頭で書いた通り、特に1巻は話の進みが遅いし表現も難しい。けどそういう経験も含めて「図書館の魔女を体験する事」のような気がしています。

また少し時間が空いたら絶対読み返したくなる、人にはあまり進められないけど心に残る良い作品。僕はこの本にたいしてそういう感想をもったのです。

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