百田尚樹の『海賊と呼ばれた男』とは
百田 尚樹といえば『永遠の0』が有名。史実に一筋の創作を加えることで独特の戦場で感じる匂いや説得力のある説明で作品の世界観に引き込まれます。
そんな百田さんの有名作品が『海賊と呼ばれた男』。
有名だしググれば基本的な情報は出てくるのであらすじや概要は割愛。
本の概要を一言で書くと、戦前から戦時中そして戦後にかけて石油と向き合ったとある親日の石油会社の社長の鬼ブラックな会社経営の話。
本は面白いけど僕が感じたのは「ブラック企業として有名な和民の社長ですら裸足で逃げるほどのブラックな会社運営論を展開するビジネス書」でした。
恐ろしくもこの本を評価するとしたら、評価は10点中8点。
万人には刺さらないけど読むと満足感が得られます。
冒頭で自分の中の漢が震え上がった
冒頭の章を読んだ方ならわかるはず。戦争終結のアナウンスをラジオで聞き、モノもカネも仕事もないけど抱える数百の社員に内心焦る主人公の「国岡商店」店主。
銀座の本社での役員会議では「仕事もないし養うカネもない。会社経営自体困難なのだから社員を大幅に削減しましょう」というしごく当たり前の提案に対し「ならん、ひとりの馘首もならん!」と一方的に拒否。「戦後何もない中で最大の資産は有能な人間」と臆する様子もなく語り、そして役員たちに「全てダメだったら共に乞食をしよう」という姿勢。そして社員を集め「全員、すぐに仕事に取り掛れ!」と内心ではあてもないのに言い切る胆力。
「漢だ・・・」と思わざるを得ず、なんというとんでもない本を読み始めてしまったのだと感じました。
「国のため・石油業界のため」という一貫した信念ですべてを乗り越える話
スケールがでかい、といえばそうなのかもしれません。
「国が豊かになるなら会社なんて潰しても構わない」「石油業界が前進するために誰かが貧乏くじを引かないというならうちが喜んで引く」「何があってもやり抜かなければいけない」
この本は上下にわたり、降ってきたトラブルや問題を全てこの信念でもって判断・実行しています。
短期的には貧乏くじに見えるかもしれない。けど率先して貧乏くじを引いてでも邁進する様を誰かはみていて、観ていた誰かが将来チャンスをくれる。ギブアンドテイクに全てを賭ける漢の話でした。
正直読み始めて4分の1くらいで飽きた
上で書いた通り感動するほどのブラック、だけど倫理観も常識も想いの前では無用!という主人公はカッコよい漢です。
でも、この本は初志貫徹してこの信念で問題を解決していく話なので後半は飽きました。
具体的に書くと「主人公の若かりし頃の話」に入る前辺りがピークで、上巻を読み終えた辺りが一番満足度が高かった。
ひたすら自分語りを聞いているようで飽きた
自伝ではないしやっていることは本当にすごいことだと思う。けど「いかに大変な状況で誰も協力してくれず孤立奮闘していたが持ち前の人脈と気持ちと社員で乗り切った」というアッピールが正直読んでいてしんどかった。
石統やライバル企業、政府の手のひら返しや妨害などの書き方は一方的で「本当?」ってなるし、ちょっと被害妄想というかXの被害者の投稿なみにうさんくさい。
石油配給統制会社 石油の流通と販売を統制するため、戦時中に軍部が作った国策会社。 略して「石統」と呼ばれている。 当時、石油業者は石統に加入しないと国内の石油を扱うことはできず、逆に言えば、加入すれば協定に守られ政府に認められた状態で、石油にいくらでも高値を付けることができた。
下巻は話が進むが結局同じことの繰り替えしだし、石油の歴史としては面白かったけど正直斜め読みしながら読み進めてました。
あ、イランの話もエピソードとしては面白かった。けどこの社長目線でなくても良いかなぁというかんじ。社員のおかげ、感謝!の一言で済まされているのがサラリーマンの自分としてはもやっとしてしまいました。
ブラック企業の社長も驚くブラックさ
時代なのはわかってる。けど流石に容赦なさすぎでは?
「やりがい搾取」「長時間労働」「マインドコントロール」「社員はみんな家族」「社長を神のように扱う文化」「従業員たちは皆ニコニコと気持ちよく汗を流しながら長時間労働を楽しんでいる」「本当の社員は誰一人辞めなかった」「神風特攻隊の話を聞いて、特攻した若者を神だと思った」
本を読んでいるとこれらのことが美談のように書かれているし、現代のブラック企業も裸足で逃げるほどのブラックさがさらっと書かれています。マスクもなく軍艦のタンクに入ってバケツと素手で石油と泥が混ざったダークマターを数年間回収する仕事を指示。ブラックすぎて震える。
ポツダム宣言受領が1945年8月14日なので、2025年現在からたったの80年前の出来事。少し生まれる時代を間違えたらブラックが当たり前の世界だったのですね。。。
今から80年後には仕事はどうなっているんだろうか。
ブラックだったからこそ日本は発展したのかもしれない
ブラックすぎてやばいという感想と共に「ブラックな労働環境だからこそここまで発展したのだろうか」とも考えてしまうのです。
ライバルの海外企業は比較的に当然労働条件もしっかりしていただろうし、今の日本の36協定など大企業が長時間働けない国の会社と、従業員が喜んでニコニコ長時間残業する会社では当然後者の方がマンパワーが違う。
そう思うと、現在のブラック企業に対する風当たりの強さをみて、なんともいえない感情にもなってしまうのです。。。
つまりどういうことかというと、会社では仕事でプラグラミングしてて、土日は趣味でプラグラミングしている人が最強ってこと。つらい。
映画『海賊と呼ばれた男』もあるので観てほしい
映画もあるのかーと観てみたらなんと、『ゴジラ-1.0』の山﨑貴監督だった!
ゴジラはもちろん、『永遠の0』の主演俳優がこの作品にもたくさん出てくるので観たことがある人はこの作品も楽しめるかも。2025年現在はアマプラでサブスクある。
なお僕が映画を観た感想を三行で書くと以下でした。10点満点中6点。本未読状態だったら4点。
- 本で読む國岡さんよりもだいぶ利己的で会社経営者というより所長くらいの小物感
- エピソードはどれも印象的な物ばかりで良かったし曲が良くて浸れる
- 綾瀬はるかが美しい!!
本のような漢っぷりは感じられずざんねんだった。
まとめ
歴史の本を読んでいたら現代の労働環境について思いを馳せることになるとは思いもしませんでした。
主人公はめちゃくちゃ偏っているし鬼ブラック経営者だけどだからこそ辿り着ける局地を眺めることができて楽しい経験だったし昭和の人間なので現代の口ばかりで手を動かさない人たちよりも好きだな正直。自伝としては正直途中で飽きるけど「石油の歴史」という観点ではなかなかコアな話が出てきて興味深かったし、石油についても学ぶことができて良い本でした。
永遠の0も映画しか読んだことがないので原作はちょっと気になっています。
こんな感じ。